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ESSAY - 経験のコラージュ -


7年くらい前に書いたもの。すこし修正しました。


以前、JR新大阪駅の新幹線のホームにある売店で、お茶を買おうとしたときのこと。
おねえさんにお茶をくださいとつたえると、おねえさんはすこし奥のほうへ小走りで向かい、「どのお茶にしますか〜?」と質問をなげかけてきた。
僕は、その頃『お〜いお茶』をひいきにしていたので、迷うことなくその銘柄をつたえた。
しかし、おねえさんが奥へ行ったことにより、僕と彼女との距離が、まさに「お〜い」と、声をかけるのにぴったりの距離になっていた。
なので、僕は、初対面のおねえさんに向かって、まるで亭主のように「お〜いお茶」と要求したかたちになった。
「(お〜い、きみ)お〜いお茶」というふうに。
にもかかわらず、おねえさんは「は〜い!」って明るく対応してくれた。

東京に来て、常磐線にのっていたときのこと。
そのときは知り合いとふたりで乗車していた。
日暮里か上野でおりて山手線にのりかえようかと相談していた。そして、日暮里駅に着いた。
ふいに相手の姿が消えてなくなった。
どこへ行ったんだ? 電車をおりたのか? まだ、なかにいるのか?
しかし、人が多すぎて、あたりを見まわしても、どこにも見当たらない。
僕は、いらいらしながら電車の扉から首だけを外に出して「どこやねん」とつぶやいた。
小声でつぶやいたはずだったけど、知らず知らず、そこそこ大きな声になっていたのだろう。
「どこやねん!」「ほんま、どこやねん!」とつぶやいていたけど、それらのつぶやきがぜんぶ、そこそこまわりに聞こえていたのだろう。
扉の近くにいた女性が、親切に小声で「にっぽり」と教えてくれた。
最初、その意味がよくわからなかったけど、駅の名前を教えてくれたのだとわかった。僕がつぶやいた「どこやねん」を「ここ、どこやねん」と、いまいる場所がわからずにぼやいているのだと彼女は受け取ったのだと思う。
僕は、その女性の親切な態度に感謝し、「あ、いえ、すみません」と笑顔でこたえた。
でも、問題はそうじゃなくて、さがしている相手がどこへ行ったかであった。
ふたたび、僕は「もう、どこやねん!」「ほんま、どこやねん!」と、今度はさきほどよりもせっぱ詰まった声を出して不満をあらわにした。
すると、またその女性が「にっぽり!」と教えてくれた。
「にっぽり!(ですよ)」「にっぽり!(だよ)」という感じだった。
「あ、いえ、ありがとうございます(でも、ちがうんです!!!)」と、僕はこたえた。
そして、扉が閉まるまえに、僕は日暮里駅で下車した。
行方をくらましていた相手は、すこし先の階段の下で、のんきな顔をしてつっ立っていた。
その顔は、まさに「にっぽり」という感じであった。
(2010.5.19 → すこし修正 2017.2.18)


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